【シャニマス】七草にちかと消せないモノ
5月10日、七草にちかの新規pSSR、【♡まっクろは厶ウサぎ♡】が実装され、おかげさまでプロデュースすることができたので、感想のような何かを書き残しておきます。Trueエンドまでのネタバレしかないのでご注意ください。
ちなみに私はシャニマス始めてほぼ50日なので本当にシャニマス世界の一部分しかまだ見れていません。あと、このにちかの物語も見方によって捉え方も書けるものもかなり違ってくるように思います。なので、今回は「消せないモノ」に焦点を当てて自分なりにまとめていきたいと思います。
にちかと油性ペン
とはいえまず何から書いていこうかと迷ったのですが、とりあえずカード名の話から。
まず第一印象が「読みづらい……」でした。平仮名と片仮名が不規則に並んでいて、どこで切っていいのかも分からない。これは文句ですが打ち込みにく過ぎる。ハートマーク付いてるからかろうじて可愛く見えなくもないですが、一言で言えば歪です。
このカード名の由来は、4つ目のコミュ『やばいいきもの笑』で分かります。
事務所の冷蔵庫に入れるものには、油性ペンで名前を書くように言われたにちかは「他の人に見られるのだから」という理由で、緊張しながらペンを走らせていきます。そして小学校に入学する時、姉であるはづきに油性ペンで名前を書いてもらった時のことを話し始めます。
なんか、ヘンなキャラを描いちゃったんですよね ハムスターみたいなやつ!
喜ぶと思ったっぽいんですけど、でも、私がウサギがいいとか言い出したらしくて
お姉ちゃん、耳延ばしたんですよー そのハムスター、上から無理やり!
で、つなぎ目がヘンだから耳全部真っ黒に塗って…… そこだけ真っ黒でヘンだから、全身真っ黒に塗って……
めっっっちゃ怖いやつになったんです……!
ウサギになろうとして、真っ黒になったハムスター。外から見れば、真っ黒なウサギ。消せない油性ペンで書いたものだから、継ぎ足す以外にどうしようもない。
最初にこの話を聞いた時、「にちかみたいだなぁ」と思いました。
W.I.N.Gコミュでのにちかは、シーズンが進めば進む程、どんどん後戻りができなくなっていく印象を受けます。無理やりアイドルになったものの、自分にはアイドルとしてやっていける程の力が無いから八雲なみの真似をした。けれどそれは想像以上に大変なことで、しかも八雲なみの白盤を見つけてしまい、これまで自分が拠り所にしていた“なみちゃんを信じる心”でさえも揺らぎ始めます。
ですが、1度アイドルの世界に飛び込んでしまった以上、もう後戻りはできません。現実的にはそこでやめることも可能かもしれませんが、何かをやめようと決断することは相当の勇気や精神力がが必要です。しかもにちかは「諦めきれなくて」アイドルになった身で、冷蔵庫に入れるものに名前を書くのにでさえ「他の人に見られるから」という理由で緊張してしまうレベルで“体裁”というものを気にする性格。自分自身でアイドルに見切りをつけることはほぼ不可能でしょう。
平凡な女の子は、継ぎ足し継ぎ足しながらアイドルになった。それはまるで、真っ黒なウサギみたいなハムスター。カード名の歪さは、にちかの現在の歪な状態を表しているのかもしれません。
こう書くととてもネガティブに聞こえるかもしれませんが、この真っ黒ウサギの思い出話は、にちかとプロデューサーの間では笑い話として扱われます。そして、プロデューサーはそのウサギを見てみたいとも言い出します。そこまで言うならプロデューサーの手に描きますね!と言うにちか。
ここで選択肢によって分岐するのですが、「油性ペンは消えないものと認識し、だからこそ丁寧に良いものを描いて欲しいと言うプロデューサー」と「ぐりぐりぐりーー……!!!!!と勢い良くウサギを描いていくにちか」という点では共通しています。
ここで印象的だったのは「ち、小さく頼む!」の選択肢。ここでは唯一、楽しそうにウサギを描くにちかが描写されます。
楽しそうなにちかと、前向きなプロデューサー。なんだかここに、希望を見い出せるように感じます。
にちかは、アイドルになってしまった、アイドルに憧れてしまったことで全てが塗り変わってしまった存在なのだと思います。
だったらこれからもっともっと塗り進めて行けばいい。怖くたって、やばくたって、歪だって、ウサギはウサギだし、案外誰かの心を奪っちゃうかもしれないから。そして、気づいたら立派なウサギにもなれるかもしれないから。
にちかと言葉
これは私個人の考えですが、この世に言葉ほど厄介なものは無いと思います。口から形も無く流れ出るくせに1度言葉として出したら完全に取り消すことはできない。自分の言ったことを間違いだったと認めることはできても、言った事実そのものを消すことはできません。それは言葉そのものだけでなく、言葉によって受ける心の動きにも、傷にも当てはまることで、時として一生残るものにもなります。
にちかと消せない言葉、というと最初に思い浮かぶのはW.I.N.Gコミュの冒頭のシーン。
大声で言えば言う程、誰かが聞いていればいる程、取り消せなくなることをにちかは知っていました。
この時にちかはプロデューサーに「思い切りがいいことの他には、とにかく平凡な女の子」と評されています。つまり、にちかの大きな特徴は思い切りがいいこと。これは本当に、良くも悪くも、と言うべき特徴だと思います。
3つ目のコミュ『あた』での、にちかのバイト先の上司であるフロアマネージャーと、プロデューサーとの会話にこんなものがありました。
そして、並行して描かれるにちかの言葉。
自分の気持ちを言葉として表現する時に、その言葉で自分が傷ついてしまう。しかも思い切りが良いからあまり考えずに言葉を発していることも考えられるため、そのせいで頻繁に傷ついているかもしれません。
このコミュのタイトルである『あた』は1つ目の『あたりますね』から抜き出したように見えるのと同時に、痛みを感じた時に思わず口から出る言葉であるようにも見えます。1つ目の『あたりますね』、2つ目の『もっとあたりますね』ではイライラしてプロデューサーにあたるにちかの姿が描かれていましたが、もしかしたらそこでもにちか自身が傷ついていたのでしょう。特に『もっとあたりますね』では、にちかがプロデューサーに対して抱えていたモヤモヤを、言葉としてぶつけている。そしてそれは確実に、にちか自身を傷つけていました。
自分が何を言っているのか理解しているのに、自分に自信が無くて強がった物言いをして、傷ついてしまう。その傷は簡単に消せないのに。一見矛盾しているようですが、実際よくあることだと思います。
私は言葉はものすごく厄介なものだと書きました。それと同時に、言葉には厄介な分だけ力があるとも思います。。そしてにちかは、その力にも縋っているように見えます。
印象的なのはオーディションに合格した時の言葉。
そして、W.I.N.G準決勝前のプロデューサーとのやりとり。
「予言してください……上手くいくって」
「いくよ」
「……言ってください 可愛いって」
「可愛いよ、にちか 大丈夫だ」
「……可愛い、上手くいく、大丈夫 可愛い、上手くいく、大丈夫……」
無意識的なものかもしれませんが、言葉として形づくることで生まれる力に縋っている。これは、八雲なみの『そうだよ』の白盤に『そうなの?』と書かれていたのを知ったことでにちかが大きく揺らいだことにも繋がってくるかもしれません。
要するに、にちかはおそらくその性格も相まって、かなり言葉に振り回されているように感じます。と、同時に、プロデューサーはそれを上手くコントロールできるようにしているようにも感じました。
先程の3つ目のコミュの続きのシーンです。
出なかったら、パンチでいい
パンチというワードは1つ目のコミュでも登場していました。(選択肢の分岐先の中の1つでしたが)
やばい、という言葉を上手く説明できなかったにちかが発したもので、また、パンチするということは言葉を介さずに相手に意思を伝えられる行為の1つでもあります。これを、プロデューサーはにちかに手段の1つとして推奨しました。
他にも、朝コミュにおいてパーフェクトとなる選択肢が「話さなくていい」だったり、逆に「……思いっ切り、言っていいぞ!」だったりと、にちかが上手く言葉と付き合っていけるようにすることが、プロデューサーとして1つ必要なことにあるように思います。
このことは、TrueEndコミュにおいて特に顕著に感じました。
にちかの「ビッグになる」という夢、そして「本当にビッグになるかわからない」という言葉を聞いて、プロデューサーは大声で叫びます。
「ちょ……っ!プロデューサーさん!!!アホなんですか!?!?!? そんな大声で」
「大声出したのは、にちかじゃないか
事務所の屋上で、ここでアイドルになるって 大声出したのは、にちかだ
取り消さないだろ?」
そして、にちかも再び叫びます。
言葉に振り回されるなら、最初に言葉を発して、自分の進む道も決めてしまえば良い。それは、にちか自身が始めたことだったけれど、取り消せないなら……取り消さないならそれをどんどん大きくしていけば、どうしたって前を向くしかなくなるのかもしれません。
にちかと生まれた場所
子どもは、生まれてくる場所を選べない、といったようなことはよく言われます。そして、家族との繋がり、血縁関係というものはどう足掻いても消せません。加えて、まだ高校生ともなるとそう簡単に暮らす場所も選べないでしょう。
上で少し話しましたが、TrueEndコミュにおいて、町全体を見渡せる高台でにちかはプロデューサーに自分の家族にまつわる夢を語ります。
いつか建てたいって思ってるんですよね……ビッグになって!
家 家族のための家!
お姉ちゃんとか、おじいちゃんとかおばあちゃんとか
病院にいるお母さんとか、今は住んでないけど、おじさんたちとか……
未来に増える家族とか!そういう、みんなが帰ってくる場所っていうか
この話と『明るい部屋』のコミュから考えると、七草家は父が他界、母は病院にいて、にちかは姉であるはづきと、おそらく祖父母と共に暮らしていること、そして決して裕福とは呼べない生活を送っているであろうことが分かります。ですが、(これまで見てきた中でにちかが自分の生まれについて悲観しているように受け取れるものは無かったという点からしか考えられないことですが)にちかはおそらくこのことを他人に同情されるほど不幸なものとは思っていない。
いつも、当たり前に歩いている変わらない町。自分も、その中の一部。それは全然夢がないことだけど、そんな中に家族のための家を建てることが夢だとにちかは語ります。プロデューサーが「そんな顔で笑うんだな」と思う程に穏やかに。
それは、16歳の少女が語るにはあまりに現実的で、あまりに世の中にありふれた夢であるように感じます。けれど、にちかの生まれた場所は、そんな夢を抱かずにはいられない場所だったのでしょう。
ここで思い出したことがひとつ。以前にも、にちかは町の雑踏と自分について話をしていました。
この時にちかは「なみちゃんの靴に合わせなきゃダメだ」と、苦しそうにレッスンを続けていました。そうでなければ、人ごみの中で見てもらえないから。
「アイドルになりたい」という願いを胸にもがき苦しむことと、「家族のための家を建てたい」という夢を抱いて穏やかに暮らすこと。そのどちらが幸せなのか私には分かりません。もしかしたら、町の中で名前も知らない花の香りに思いを馳せている方が、幸せだったかもしれない。でも、にちかは八雲なみというアイドルに思いを馳せて、自分も名前を知ってもらえる誰かになりたいと願った。
そうしてにちかは、アイドルになるという宣言を取り消さないまま、ビッグになるという宣言をそこに重ねていった。いま、夢に願いを重ねていったんです。それはきっと、にちかだからこそできたことなのだと思います。
【試聴動画】THE IDOLM@STER SHINY COLORS COLORFUL FE@THERS -Stella- - YouTube
プラニスフィアを信じろ
にちかと
にちかは、「平凡な女の子」です。
これまで書いてきた、油性ペンも、言葉も、生まれた場所も、にちかだけじゃなくて、誰にとっても、「消せないモノ」です。
にちかはきっと、さっき町ですれ違った誰かで、今はまだありふれた存在なのだと思います。私はそれを悪い事だとは思いません。
けれどアイドルは、誰かにとっての“特別”にならなければならない。そんな世界に、にちかは飛び込んだ。それはきっと茨の道で、これまで平凡な人生を描いてきたにちかにとっては厳しいものだと思います。
それでも、過去は消せなくても、その上から、続きから、未来を自由に描くことはできる。傍から見たらにちかは、アイドルに“なってしまった”、アイドルに“憧れてしまった”存在なのかもしれない。だったらそこから、とんでもないアイドルになってしまえばいい。そんなことを、一連のプロデュースを終えて感じました。
きっとにちかも、誰かにとっての特別になれる。それはファンにとって、仲間にとって、相方にとって、プロデューサーにとっての特別。きっとどれにでもなれる。
そんな思いで、にちかのこれからの、決して楽ではない新しい道のりを、隣で見守っていたいなぁと思います。